本屋で反脆弱さというタイトルの本を見つけて面白そうだったので読んでみる。
反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方 2017/6/22
ナシーム・ニコラス・タレブ、 望月 衛
原作はもっと昔に出ているようだが。
通常の概念として脆弱の反対は強靭さだが、いつか壊れる強靭さと違い、ストレスを加えることで強くなる概念を提示し、それを新たな造語として、反脆弱性 と定義している。反脆弱性を持つものの特性として、予測に頼らずに不確実な環境において意思決定を下せることを上げ、それを生物、有機物の特徴としていえるのではないか、という仮説から始めている。また、同時に現代性は脆弱性の特性が強いとし、その盲点を暴いている。
具体的な例として、挫折が人間を成長させ、イノベーションは必要に迫られて生まれるのに、現代人は間逆な環境に身を起きがちなこと、安全対策のための自動化は事故を増やすことなどを例に上げている。
未来に対して人間は身体のほうが頭脳よりも敏感であるとし、ダーウィンのいう順応以上に、生命には今後のストレスある環境を予期する能力を備わっているようだと説く。
変化がないがために変化に対応できずに急にリストラにされる銀行員より、日々の変化(ストレス)を受け改善を余儀なくされる結果長期的には安定するタクシー運転手や売春婦の対比をしている。クリスマスの直前まで平穏な七面鳥に、頭脳的に歴史を学んで今は平和と思い込む現代人を比喩しているあたりが興味深い。
命あるものは反脆弱性があるのは、複雑系を形成して、相互依存性が生まれているからとし、個別のレストランの競争が集合体の発展をもたらし、絶食は悪いタンパク質を先に分解させ、体内で再利用される。スイスの州の集合がノイズレベルの軋轢を生みつつも、連邦レベルでは安定している。安定の実現はノイズの管理であり、ノイズの最小化ではないと言ったあたりが印象深い。系をなすそれぞれの要素のあるべき大きさにも触れていて、規模が大きくなると他者は抽象的なものでしかなくなり、小国の小競り合いはバランス良く同盟を形成しながら犠牲を最小限にとどめていたのが、大国になったら二回の大戦で大きな犠牲を出した例を出している。細胞、個人、集団というように、系を形成する入れ子構造の複雑系、その互いのスケールがどう有るべきかというテーマは建築にも通じる重要な命題なので、引き続き読み進めてそのあたりのヒントも探っていきたい。